オランダのクリニクラウン基金の活動は、クラウンが病院を訪問し、子どもたちを病気から開放することを目的として行なっています。対象は、0歳〜18歳までです。
“Clowning”という手法を用いて、病気の子どもたちの“Well-being”を高めるというのが、この活動の目的です。
重要なポイントは、「クラウン」ではなく「こども」です。クラウンが、何かをやるのではなく、子どもがクラウンと何をしたいのかということです。クラウンの介入によって、子どもが病気から解放される時間をつくることがねらいです。
本日の私の講演の主題は、「病気の子ども」「クラウン」「クラウンと病気の子ども」の3つと、現在世界中で病院でのクラウニングがどのように展開されているのかについて、お話しいたします。
病気のこども
第一に、子どもは、「遊び」を通じて周りの世界を発見します。成長とともに、自分を取り巻く世界を段階を追って「発見」してきます。その「発見」自体が成長なのです。
しかし、病院にいる子どもは入院中であることで、病院のルールの中で生活することを強いられてしまいます。
医者、看護婦をはじめ医療スタッフは、できるだけ入院患者である子どもを大切にしようと考えています。しかし当然医療行為をする立場であり、その中には「注射をする」といった、子どもが嫌うものも含まれます。また、病院は組織で運営されているので、個人の感情ではどうしようもないこともあります。病院という「境界線」の中に、子どもは囲い込まれているといえるでしょう。
そこでは、子どもはどんなに大切にされていたとしても、おとなびた振る舞いをするようになります。病院は、「遊びが少ない」「発見が少ない」「想像力を解放するチャンスが少ない」からです。その結果、入院期間が長ければ長いほど、より大人っぽい振る舞いをするようになります。
クラウン
次に、クラウンのことを少しお話したいと思います。クラウンは、世界中どこの文化の中にも存在し、アメリカンインディアンの3000年前の資料にもそれらしきものが、描かれているといわれています。
クラウンの特徴について述べていきたいと思います。
まず、クラウンは2面性を持っています。「善」と「悪」、「賢」と「愚」といったものです。そして、外見・スタイルにはいろいろなものがあります。サーカスにいるクラウン、大道芸のクラウンなどがいますが、それらのクラウンと、クリニクラウンは全く違います。オランダのクリニクラウンは、大きな衣装や派手なメークはしません。クラウンらしいシンボルとして、「赤い鼻」だけは必ずつけていますが、服も、普通の服装に近いのです。
また、クラウンは「鏡の機能」を持っています。クラウンに接した人は、クラウンを通じて、自分自身を見つめるということがおきます。クラウンは、「赤い鼻」だけが特徴ではなく「この人とコンタクト(=かかわる)と何かが起こる」という部分で、クラウンなのです。このコンタクト、つまり特別な関係性を結ぶことが重要なのです。通常のクラウンが行なうパフォーマンスのような、派手なかかわり方とは異なるクリニクラウン独自のかかわり方というものが、重要になってきます。
クラウンの原則
大切なことは、この「かかわり」方なのですが、具体的にはオランダのクリニクラウン基金では次の3つの重点があると考えています。
第一に、子どものファンタジー、想像力を刺激することです。第二に、「わー、すごい!」という感覚。三番目には、クラウンだけができる最も大切なことですが、状況を転換するということです。
病院においては、医者は高い地位、立派な位置付けです。子ども(患者)と医者は、違う身分です。ここには明らかに「境界線」があります。クラウンの介入は、その境界線を取ることができます。
病院でのクラウニング
病院におけるクラウンの介入は、子ども自身が主導権を握ることができるということが、ポイントです。病院での生活においては、子どもにとって、医者はもちろん看護婦や親でさえ自分より上の存在です。しかし、クラウンの介入によって、子どもがボスになる可能性を与え、それにより活力が生まれるのです。クラウンがその境界線を取り除くことにより、子どもの独立性を高め、自分の力が戻ったことを体感できるのです。そこで、たとえクラウンと接する時間は短時間だけであっても、自尊心が甦ります。そして、子どもらしい活力が現れてくるのです。
クラウンが訪れて一緒に遊び笑えるのは、週に1回たった10分間だけかも知れませんが、子どもらしい歓びを体験できるのが、このクリニクラウンの病院訪問なのです。
世界の潮流
次に、病院でのクラウンの活動の世界における背景と、現状の取り組みについて、お話しします。クラウンの病院訪問は、1985年に米国ではじまりました。そして、20年あまりの間に世界中で急速に広まってきています。今も拡張し続け、今後もさらに広まっていくものと思われます。
一般的には非営利の慈善活動として行なわれている活動で、商業的に行なわれるものではありません。私たちオランダのクリニクラウン基金は、企業と個人がスポンサーになって、活動資金を得ています。
病院においてのクラウンの活動は、今では一般の人にも必然として認識されているものです。社会が豊かになってきて、クオリティ・オブ・ライフに着目するようになってきた結果でしょう。合理性のみが尊重されてきた時代から、精神的な充足感の重要性に皆が気づきはじめた結果、この活動が支持されているということを強調したいと思います。
病院クラウンの世界的ひろがり
病院でのクラウニングを創始し、世界的に広がるきっかけをつくったのは次の2人です。
パッチ・アダムスは、映画になったので日本でもご存知の方は多いと思いますが、医者です。「愛」が治療にどれだけ有効かということについて、訴え続けています。“Being Clown”=クラウンでいることが、患者との関係で巧くいくコツであることを、人々に示しました。
マイケル・クリスチャンセンは、米国ニューヨークの「クラウン・ケア・ユニット」の創始者です。兄弟が入院中、見舞いに行っていた病院の依頼で、病院でクラウンをやったことがきっかけで、後に闘病中の子どもにとってのクラウンの重要性に気づき、クラウンの病院訪問システムをつくりあげました。
1985年にアメリカでクラウンの病院訪問が始まった後、90年代には、一気にヨーロッパでも広がることになります。
現在、ビッグフォーと呼ばれているのは、アメリカのビッグ・アップル・サーカス、オーストリアのローテ・ナーゼン(赤い鼻)、スイスのテオドラ、そして私たちのオランダのクリニクラウン基金です。
私たちのクリニクラウン財団の取り組み
オランダでクリニクラウン基金が設立されたのは、1992年です。そして、1999年からは、急成長しています。現在は、オランダ国内だけではなくルーマニアでも私たちのシステムで病院訪問クラウンの団体の立ち上げに協力していますし、今後は、日本にも協力をしていきたいと考えています。
私たちは、80人の団体ですが、そのうち60人が専門的に教育を受けたクラウンで、マネージメントスタッフが残りの20人です。オランダは、小さな国なので、これで全ての病院を回ることができています。決められた日に各病院を訪問します。最初は大学病院のがんの子どもから始めました。重病の子ども達から始まったこの活動も、今では短期入院や骨折の子どもたちのところにも訪問できるようになっています。それを延べ回数でいうと、年間80,000回です。そのための費用として、年間600万ユーロ(約8億2000万円)の寄付をいただいています。100%寄付金で運営していますが、企業は限られていて個人からの寄付は、11万人からいただいています。これは、オランダの慈善団体のうち6番目であり、85%の国民に知られているたいへん人気が高い団体です。
今後の予定
将来的には、さらに訪問回数を増やしたいと考えています。病院だけではなく、施設や自宅療養の子どもたちともネットワークできればという構想がありますが、時間的にも金銭的にも制約がありますので、これからの課題として残されています。また、インターネットを使って、もっと多くの子どもとコンタクトする方法も探っていきたいと考えています。それが実現すれば、クラウンとして最初にインターネットで子どもと関係性をつくる団体になります。
しかし、日本の場合は本当のクラウンが本当の病院にいる子どもたちのWell-beingを高めるために、どうするのかということから始めていくことが大切でしょう。 現在、私たちの団体は国際的に広がりを見せていますし、他の国の団体ともよい形でネットワークが結べています。日本にも、要請があれば、協力を惜しまないつもりです。
【2004年1月10日 大阪講演会でのQ&A】
Q1 病気の苦しみは、おとなもこどもも同じはず。なぜ対象はこどもだけなのか? 今後、おとなにも対象を広げる計画はあるのか?
これは、よく受ける質問です。おっしゃるとおり、基本的には大人も子どもも苦しみは同じです。ですから、本来ならば、対象を広げてやりたいところです。しかし、限界があるのです。子どもが子どもらしくいられないことに対して、集中してやっていくことしか現実にはできません。
Q2 クラウンが病院を訪問するプロセスを教えて欲しい。
自分たちたちは、病院にとってはゲストです。病院スタッフの一員として、クラウンが入っていくわけではないのです。しかし、『紳士の契約』があります。それは、時間的、場所的にさまざまな制約がある中で、自分たちのベストを約束するというものです。その契約の中で、子どもについてスタッフとの打ち合わせは保障されています。病院から提供を受けるのは、訪問する子どもの病室へ入っていくこと、それから時間です。そして、クラウンが着替える場所の提供も受けています。クラウンは、私服で到着し、赤鼻をつけた瞬間、クラウンになります。そして、着替えて普通の人間として、病院を離れるわけです。病院のルールを遵守することも、約束しています。
クラウンは、ベストのサービスを提供するために定期的に研修を受けていますし、病院との関係が非常に大切であるということから、スタッフの2〜3人は、病院との渉外担当専門です。その結果、病院スタッフの多くはクラウンの訪問を大変歓迎してくれています。
Q3 60人のクラウンは専任者か
もちろん、プロのクラウンです。しかし、全員フルタイムではありません。週40時間が通常の勤務だとすると、その60〜70%といったところが一番多い勤務をしている人です。週3日を最大としています。これは、クラウンの精神的負担が大きくなりすぎることを配慮してのことです。
Q4 週2回の訪問は、平日か、休日にも行なわれるのか?
一般的には平日に訪問します。これは、病院スタッフの勤務体制という物理的な状況にあわせてのことです。クラウンの中でも、クリスマスや週末にやりたいという人がいて、状況が許せば、やることもあります。
Q5 病院でご法度のことは何か
医師や看護婦が治療中、看護中はクラウニングをしないことです。私たちの立場は、子どもは病院で最も尊重すべき存在であるということですが、病院である以上、そのバランスを取ることも役目です。クラウンは、子どもを守るという役割と、クリニクラウン財団の代表であるという二つの役割があるので、そこのところは大切なことです。
クラウンであるときは、いつも赤鼻をつけます。子どもがクラウンであることを認識できるシンボルです。スタッフとの打ち合わせや、何か大人が話をしたいときは、子どもの見えないところで赤鼻を取って話すことがルールです。「ノウズオン」「ノウズオフ」は、クラウンであるかどうかのスイッチです。
Q6 どのような人がクラウンとして働いているのか
プロのクラウンが教育を受けてクリニクラウンとなりますが、最低5年間の経験を要求しています。経験の無い人は、クリニクラウンになることはできません。パフォーマンスを観て、子どもとの関係性をどうつくれるのか、可能性を見つけて採用しています。
クリニクラウン財団は、良いアーティストを探しています。素晴らしいアーティストである必要がありますが、その人が巧く子どもとの関係性を築けるかどうかということになると、また別問題です。子どもと一緒にいてそのニーズに即興的に対応できるかどうかの資質もまた重要です。
Q7 子どもとは、どの位の時間接しているのか
クラウンは、ひとつの病院を訪ねるとだいたい3〜4時間滞在します。一人の子どもとは、5〜10分が普通です。初めての子どもと、何回か訪問して既に顔見知りになっている子どもとは違うし、年齢によっても子どもの体調によっても違います。これからの課題として、さらに細かい子どものニーズに合わせていきたいと思っています。
Q8 日本で成功させるコツ
まずは、日本にそのニーズがあるかどうかが、重要なことです、そのニーズをサポートすることが、大切だと思います。
第二のこととして、プロフェッショナルできちんと教育を受けたクラウンが従事するだけではなく、プロフェッショナルな組織体をつくり、オーガナイズの方法や財源確保にあたらなければならないということがあります。例外的にビッグ・アップル・サーカスの「クラウン・ケア・ユニット」ような組織もありますが、クラウンは、クラウン、そしてマネージメントは別の人が行なうことが望ましいと思われます。
【2004年1月12日 名古屋会場でのQ&A】
Q1 あなたが、サンタクロースだったら、クリニクラウンとして何をプレゼントするか
自分自身が子どもと一緒に遊ぶこと、そのものがプレゼントです。クラウンという別人になるのではなく、人間性が出てきます。だから、自分自身の全てを、心をこめてプレゼントしたいと思います。
Q2 私は耳が聞こえない。目、口、手を使って人の役に立ちたいと思っている。果たしてクリニクラウンとして何かできるだろうか。
コミュニケーションが私たちの仕事です。聴力を必要とするのは、言葉でのコミュニケーションだけです。それ以外のコミュニケーションの取り方は、いくらでもあると思います。従って、あなたの質問への答はYESです。
オランダは、今のところ主に病気の子どもに対してクリニクラウンが訪問をしています。今後は、さまざまな障害のある子ども達にも対応していきたいと考えています。また、私たちの団体は、病気の子どもに対して行なっているわけですが、おとなにも対応可能であり、あなたの可能性もとても広いものがあると思います。
Q3 クラウニングとして子どもとゲームをすることは可能か。
クリニクラウンの基本は、子どもの世界に自分が入っているということです。もし、子どもがクラウンと一緒にゲームをしたいという意志があり、子どもが招き入れたのなら、ゲームで遊ぶことは可能です。病室でのクラウンの役割は、子どもと関係を持つことです。ゲームをして遊ぶことは、親しく遊ぶひとつの方法と考えればよいのではないでしょうか。
Q4 自分の病気はどうなるのか。死んだらどうなるのかということを、聞かれることはあるのか、また聞かれたらどのように対応すればよいのか。
子どもとクラウンの関係によって、そのような質問を受けることはあります。しかし、そう頻繁に起こることではありません。なぜなら、クラウンは病気の子どもと付き合っているわけではなく、子どもの中の健康な部分を引き出すためにそこにいるわけで、クラウンは病気のことを忘れさせる存在だからです。
しかし、それでも出てくることがあります。その時に、このように対応するというマニュアルはありません。ルールもありません。クリニクラウンは、自分自身の人間性を出す存在であり、思いやりの気持ちを持って誠心誠意向き合うしかありません。子どもの気持ちをしっかり受け止めシェアします。一人の人間として、思いやりを持って共感することが、大切です。子どもの人格を、尊厳を持った存在として包み込み、真剣にかかわるというようにしています。
この問題だけではなく、一般的なことについて補足させていただきたいと思います。
病院にはいろいろな役割の人がいます。子どもがそれによって、混乱しないように気をつけなければなりません。医者の立場、病院の立場に立ってはいけません。クラウンは、クラウンとして独立した存在であることを、忘れないことが大切です。
Q5 トレーニング期間と方法について
クリニクラウンになるには、アーティストとしてのバックグラウンドを持っていることが必要です。5年の経験を要求しています。選ばれた人だけが、トレーニングを受けることになります。
アーティストとしてレベルが高いことは必要なことですが、もっと大切な資質もあります。アーティストとしてのクラウンは、通常は拍手を浴びる存在であり、自分が中心であることが、あたりまえです。しかし、クリニクラウンは、焦点があたっているのは子どもです。そして、クラウンはその存在を引き立てるための役割であるということを、巧く受け入れられるかどうかということです。ですから、そういったコミュニケーションを取れる能力がより重要になってきます。そうした資質が内在している人を求めて求めています。
トレーニングは、半年近くかかり、一部は病院でのOJT(実地研修)になります。また、クラウンになっても、年間15日程度の補修研修を受けます。
Q6 クリニクラウンになりたいと思ったら、オランダに行けば受け入れてくれるか。日本人が選ばれる可能性があるのか
今の質問は、国際的な研修システムの必要性を改めて認識させてくれるものでした。今後、日本での展開は、日本でシステムをつくっていくものですが、私たちは研修をはじめそれをお手伝いしたいと考えています。
Q7 オランダのクリニクラウンはメークはせずに赤鼻だけだが、どういう理由か。怖がられるからか。
怖がられないようにというのも、ひとつの理由です。特に小さなこどもは、派手なメークのクラウンが来ると、怖がることが多いです。
しかし、本質的な理由は、あなた自身がクラウンであるからです。メークや衣装がクラウンではありません。あなたの中に内在しているもの、あなた自身を出していくために、大げさな衣裳やメークは用いず、赤い鼻だけなのです。
Q8 どういうところから、寄付が集まっているのか
私たちの基金に寄せられる寄付金の50%は個人から寄せられる寄付金で、毎月定期的に入ってきます。そして、20%が企業とのネットワークで入ってくる基金です。そして、残りの30%は、自治会・学校などの団体や個人がチャリティをして、集めて寄付してくれたものです。
Q9 日本は少子化で、病院の小児科はないがしろにされている。このような現状の中で、子どもに集中してできるのだろうか
自分たちは、親の希望やおとなの希望ということはあるが、社会のニーズとして子どもに集中してやっています。その結果、たくさんの寄付金を得ていますが、お年寄りのために何かをするということでは、基金は集まり難いと思います。日本の現状については、初めての来日でもあり、明確にお答えできなくて、申し訳ありません。